茶房 とげとげ庵

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zoom RSS 展覧会「動物礼讃」「バンクス花譜集」

<<   作成日時 : 2015/01/25 16:57   >>

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 マックス・ウェーバーの「職業としての学問」にこんな一節がある。

 ある時代の芸術品が新しい技術上の手段や、またたとえば遠近法のようなものを用いているからといって、こうした手段や方法の知識を欠く作品にくらべてそれが芸術として優れていると思うのは間違いである。正しく材料を選び、正しい手法に従っているものでありさえすれば―いいかえれば、こうした新しい手段や方法を用いてなくても、主題の選択と制作の手続きにおいて芸術の本道をいくものでありさえすれば―それは芸術としての価値において少しも劣るものではないのである。これらの点で真に「達成(エルフュレン)」している芸術品は、けっして他に取ってかわられたり、時代遅れになったりするものではない。

 この主張は文脈における主題ではなく、学者が”常に進歩すべく運命づけられている”ことへの対比として述べられているにすぎない。けれども、これは美術作品を鑑賞するうえでたしかに心に留めておくべき点だと思う。

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 東京に用事があり、かねてから見学を望んでいた根津美術館を訪れる機会を得た。学芸員資格を取得するため、大学で博物館学を履修しているのだが、美術館分野の担当教員曰く「国立なら東博、私立なら根津にだけは行くべし」。東京国立博物館には何度か足を運んだものの、根津美術館にはこれまで縁がなかった(何せ港区である。ビビりがちな茨城県民には近付くことすら躊躇われるものだ)。

 開催中の展覧会は「動物礼讃」。展示室には日本・中国・朝鮮の、動物をモチーフにした名品が並び、生物学徒として強い興奮を覚えた。とりわけ印象が強かったのは古代中国の青銅器だ。哺乳類、鳥、蛇、亀、蛙などの見慣れた動物を題材としながらも、独特の迫力ある輪郭や、びっしりと施された螺旋文様が、異様な威圧感を醸成する。これらが縁起物や魔除けとしての役割も担っていたというのもうなずける。驚くべきは、青銅を精密に造形する技術が3,000年前には高度に確立されていたことだ。古代中国の青銅器は紀元前の昔から、既に”真に「達成」”していたのだと感じた。

 そういえば、青銅製の動物の中には実物大の蚕もあった。1−2世紀頃のものだという。流石は人類が完全に家畜化した唯一の昆虫であるなあと感心した。

 美術館の敷地内には広大な庭園がある。イチョウやコナラ、ハンノキなどの巨木が立ち並び、梢の向こうにはビル群が覗く。大都会の中心で緑地を保全維持するためには、並々ならぬ努力と手間がかかるに違いない。桜や楓は寒々しく葉を落としていたが、季節ごとに彩りをみせて来館者を楽しませているのだろう。次回はまた別の時季に来たい。

 根津美術館からてくてくと歩いて、青山通りを直進し、渋谷駅の人混みをかき分けていくと、次なる目的地であるBunkamura ザ・ミュージアムに辿り着く。目当ては、展覧会「バンクス花譜集」。クック船長の冒険に同行した植物学者たちが制作した植物画の展示だ。すなわち、動物と植物の美術展を一挙に楽しもうという目論見である。

 西洋人として初めてオーストラリアに上陸した植物学者であったバンクスと、植物画家のパーキンソンらが残した数々の植物画は、芸術的な完成度と学術的な価値を兼ね備えていると感じた。ただ美しいばかりでなく、果実の構造から開花様式まで、きわめて精密かつ誠実な描写に息をのんだ。博物学の知見が及ばない新大陸で、見たこともない植物たちと出会った学者たちの興奮と情熱が伝わってくるようだった。

 もしかしたら、植物画も”真に「達成」”した芸術のひとつかもしれない。植物画は「ありのまま」を描いてはいない。たとえば、花と果実を一緒に描くために、一枚の画に季節が混在していることは多い。このような工夫はしばしば見られる。葉や花の角度や成熟段階も、少しずつずらして複数を描くことで、時間と空間を表現することに成功している。絶え間なく変化する生命としての植物を、動かない平面に再現するための手法として、植物画を超えるものはない。分子系統解析によって植物を分類したり、塩基配列で種を同定できるようになったとしても、植物画が独自にもつ価値は揺るぎないと感じた。

 当ブログがかねてから掲げる指針は”健康で文化的な最低限度の生活”であるが、いささか贅沢すぎるほどの文化的充実を味わった一日であった。

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