茶房 とげとげ庵

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zoom RSS 【ノンフィクション】待望のお誘い

<<   作成日時 : 2015/02/12 22:50   >>

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 憧れていたキャンパスライフにまたひとつ近づくことができました。大学生なら誰もが憧れるアレです。キャンパスを何気なく歩いていたら急に声をかけられてときめきが始まるアレです!こんな日を待ってました!

 宗教勧誘と無縁な高校時代を過ごしたからだろうか、入学当初は怪しげな団体に声をかけられてみたくてうずうずしていた。されど現実は非情である。およそ2年にわたり、誘いの手が差し伸べられることはなかった。私はこの大学の怪しげな団体一同にすっかり失望してしまった。ひとりの若者の願いすら叶えられずして、何が宗教か。

 そんな暗闇に一筋の光が差し込んだ。今日の昼下がりのことだった。私が学食のテラスで書類を作成していたところ、二人の男子学生が現れたのだ。片や野球帽、片や眼鏡といういでたちで、文学部生だという。
「ちょっと研究でアンケートをとってるんですけど、ご協力いただけますか?」
これだ! この手の輩はひとりの学生を探して複数人で声をかけると聞いている。私は期待に胸を膨らませながら協力を快諾し、これから始まる寸劇に瞳を輝かせた。質問役は野球帽のようだ。
「お考えを聞きたいのですが、あなたは何のために勉強していますか?」
眼鏡は律儀にもメモ帳をひらいている。私は反射的に答えた。
「虫博士になるためです。小さなころから虫が大好きで、今もチョウを研究しています」
野球帽は多少面食らったように思えた。眼鏡のペンを持つ手が止まっている。
「そうですね。夢を叶えるためということで、すばらしいですね」
研究しているにしては、何ともありきたりなコメントである。
「次の質問ですが、あなたは何のために働くのですか?」
この問いに答えるのにも時間はかからなかった。
「生物の巧妙な生き様や、生命の驚くべき世界を明らかにするためです」
困り顔の野球帽は、働くためって答える人が多いんですよと苦笑した。眼鏡の利き手は動かない。
「では最後に、あなたは何のために生きると思いますか?」
私は身振りを交えながら大げさに語った。
「生物学を勉強すると、生命がいかに素晴らしい現象か思い知ることになります。進化生物学の知見は、人類を含めたすべての生物が、地球の歴史においてたった一度、たったひとつの共通祖先から生じたことを示唆しています。細胞学や生理学は、精密機械のような微細構造内における何段階もの反応機構の膨大な蓄積が個体の挙動となることを物語っているのです。すなわち、自分が存在するという事実の背景にある進化的、生化学的過程に思いを馳れば、生きているということそれ自体がきわめて価値的であるという結論に至らざるを得ません」
野球帽はすごいですねと笑って、もはや彫像と化した眼鏡と目を合わせた。眼鏡が初めて口を開いた。
「この手の質問に関心をもつ人と、もたない人ははっきりと分かれる傾向にあります。私たちはこのような問題について議論するミーティングを開催しているのですが、参加しませんか?」
なるほど冷やかし甲斐のありそうな催しである。ただ残念なことに、私はチョウの内部生殖器を解剖するのに忙しいのだ。丁重にお断りした。

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 いくらなんでも質問が陳腐すぎる。何番煎じともつかぬ茶番だ。この手の質問を適当に転がすのは、宗教勧誘とは無縁の高校時代に幾度も考えたので朝飯前の噴飯物である。そもそも素性の知れない初対面の人間の質問に糞真面目に答えてやるものか。何のために何をなすかという信念は、そんなに安いものであってはならない。

 理論武装と仕込みが足りない。語り口に雄弁さが欠けているし、意中の女性を口説き落とすような熱意も感じない。もっと巧妙に仕掛けてくれなければ、こちらのモチベーションも低空飛行である。人に何かを訴えようとするスキルが欠如していた。

 こんにち、かようなひねりのない勧誘活動を行なっても仕方がなかろう。現代の時流に即したクレバーな戦略をとれないならば、組織の存続維持は厳しいのではないか。

 残念なことに、私の失望はさらに深い闇へ堕ちてしまった。今回の一件で得た教訓を、せめて身近なところで活かしたいものである。

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