茶房 とげとげ庵

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zoom RSS 【フィクション】中央亜細亜流軟派講義

<<   作成日時 : 2015/02/11 00:44   >>

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 彼は今冬いちばんの寒波とともに到来した。第一印象は身長だった。僕より頭ふたつ分は高い。彼の故郷にそびえるという大山脈を連想せずにはいられなかった。彼に割り当てられた学生宿舎の一室は、その長身に不釣り合いなくらい狭く感じた。英語、ロシア語、日本語で何とかコミュニケーションをはかる。彼はすでに4ヶ国語を操り、5つ目に日本語を学びたいのだという。

 留学生の生活を支援するアルバイトをはじめてから、担当するのは3人目になる。そのなかでも、新しい友人はもっとも親しげにしてくれた。日頃嗜んでいるという水煙草を勧められたのにはうろたえたけれど。またいつかねと言ったら、楽しみにしていると返ってきた。たしかによい経験かもしれない。

 学生食堂で豚肉を含まないメニューを頼み、食事しながら語り合った。彼は唐突に問うた。
 「ところで君にはガールフレンドはいないのか」
 初対面の相手にしてはいささか大胆な質問に面喰いながらも、僕は首を横に振った。彼は続けた。
 「日本人はシャイだ。どうして好きな女の子に声をかけないんだ。君はふだん女の子と話さないのか?」
 「いちおう話している。授業の内容とか、生き物や昆虫についてはよく話をしている」
 「それではダメだ。虫の話なんかしてる場合じゃない。なぜ愛を語らないんだ!」
 彼はiPhoneに画像を表示して、水戸のご老公さながらにふりかざした。
 「私は日本に来たばかりだが、もうガールフレンドがいる」
 ディスプレイの中では長身のご老公と外国人女性が同衾していた。なるほどこいつやるなぁと思った。
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 少し前にラジオを聞いていたら、学生に向けたやや時代遅れ気味なメッセージが流れてきたことがあった。「もっと沢山の本を読めばよかった。もっと多くの映画を見ればよかった。熱い恋をすればよかった。さまざまな経験をすればよかった。大人になってから後悔したのでは遅いんだ。学生時代に体験しておくべきことが山ほどある。勉強するだけではだめだ。糞真面目な学生になってはいけない」。数十年前の学生とは時代も事情も違うが、多少は参考になりそうだ。

 豊かな感受性を育てるのは簡単なことではない。大学にも芸術や文化に関して無理解な友人がいる。頭はいいのに、がっかりしてしまう。おそらく、家庭環境における文化的資本をどの程度受け継ぐことができるかも重要なのだろう。一人暮らしでも心の豊かさは失わないよう心がけたいものである。

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